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コートハウス、囲われた庭をもつ住宅について

 地方での設計経験しか無く密集した市街地や都市部での設計経験の浅い自分が、首都圏という限られた敷地をいかに広く使うかを模索する施主に対してどういう回答をすべきかは非常に悩ましい問題です。法規制も厳しく予算のほとんどを敷地にあてがわなければならない状況の中で少しでも良い家を所有したいという、誰もが持つ理想と現実を読み解き形にしていくのが設計としての役割となります。これには様々な回答、解答があり、施主によって設計によってさまざまな提示提案があると思うのですが、田舎者の私がひとつ持っている方法が屋外空間の積極的な利用です。


 ついつい屋内空間を広く床面積を増やせば快適に過ごせると思われがちですが、実際に屋内と屋外の床レベルを揃えて空間をつなげ、視界をのびやかに解放すれば屋内と屋外は一体となります。コートハウスに代表される屋外の屋内化という方法は様々な展開があり、私自身も試行錯誤を繰り返しながらの毎日ですが、ある一定の理解のある施主に対しては非常に共感を得られる回答となっているのも経験としての事実でした。

 ただコートハウスというと閉鎖的な方法に思われてしまいがちですが、定義的には「囲われた屋外空間」という部分の総称の様に扱ってもらえれば解釈の仕方によってどんな庭も「コート」ととらえる事が出来ます。屋外の外周を囲い、その外周に目線や音や光などのそれぞれが求めるレベルに応じたプライバシーやセキュリティーを確保するための囲いを設ける事によって、屋内と屋外のしきりとなり得るカーテン等のウィンドウトリートメント無しで生活出来る可能性がでてきます。外周の囲いは塀であってもフェンスであっても時には緑であっても構わず、内側のプライバシーとセキュリティーが確保される事が何よりも重要です。カーテンというマテリアルが無くなるだけなのですがこの効果は大きく、通常の屋内と屋外はそれぞれ別の空間ではなく、屋内+屋外という一体化された空間として意味をもってきます。

 ここで重要となってくるのは、実は屋内空間よりも屋外空間の豊かさとなるのですが、ほとんどの施主がそうである様にプロである私達もまた屋内の環境ばかりに目を向けてしまいがちです。屋内空間が常に動きの少ない静なのに対して屋外は常に動な空間であり、昼夜の明るさの変化はもとより一年を通して季節ごとに太陽の陽を受け色を変えたり、風によって揺れ動く木々の葉やそれによって動く影、天候によって表情を変える床面の色あいなど、屋外には生活の中で豊かさをもたらしてくれるもので満ちています。利便性を求めれば違った回答となると思いますが、生活にゆとりや豊かさを求めるならば屋内空間の床面積を増やす事よりも屋外空間が豊かで気持ちよいスペースである事の方が大切な事なのではないかと、設計生活をはじめて16年間もかかってなんとなく気付き始めました。

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